映画祭レポート①/「プロフェッショナルトーク キム・ジンマン監督」


 
 今日から順次、映画祭編集局ボランティアスタッフの皆様がプログラム別にレポートしてくださった記事をアップします。ボランティアスタッフの皆さん、タイトなスケジュールの中、きっちり仕上げてくださってありがとうございましたー!素晴らしい!
最初のレポートは、インターナショナルコンペティション ファミリープログラムのノミネート作家として来場くださった、韓国のキム・ジンマン監督トークプログラムです!
 
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 映画祭2日目、「プロフェッショナルトーク キム・ジンマン監督」が開催され、ストップモーションアニメを手掛ける韓国の鬼才キム・ジンマン監督が、日本を含め世界でさまざまな賞に輝いた『Noodle Fish』(2012年)と『おどるカエル』(2018年)の自作2本の上映の後、それぞれの制作裏話を朴訥なトークで明かしてくれた。
 
 『Noodle Fish』は、小さな池の魚が外界に憧れて冒険を試みる物語。針のように細いものを無数に積み上げ、それを押してでこぼこを作って陰影を浮かばせコマ撮りする「ピンスクリーンアニメーション」の手法を用いた。ロシアの伝説的巨匠アレクサンドル・アレクセイエフがこの技法でアニメを作ったことを書物で知り、取り組んでみようと思ったという。
 

 
 何といってもユニークなのは、針ではなく乾麺を使い「世界初の麺アニメ」に挑戦したこと。監督は「10人前ぐらいの太いパックが売られている韓国では、子どもなら誰でも麺の束を側面から押してみた経験があるはず」と笑う。まず4章からなる『でこぼこ物語』(2003年)でこの手法を試し、うち2章の物語を自らリメークする形で『Noodle Fish』を制作した。
 
 撮影台として幅200センチ、高さ60センチの長方形の枠型を作り、そこに1400人前にもなる乾麺を敷いて積み上げた。撮影する表側が平らになるよう麺一本一本は長さを正確に切りそろえた。隙間が生じると黒い点のように見えるので、後から麺を差し込んでびっしり埋めたという。
 
 積み上げた乾麺の表側に下絵を描き、その形になるよう表や裏側から麺を押してでこぼこを作り、へらで整えて1コマ分の絵を作る。これを撮影し、描いた魚などのサイズを正確に測ったのち、同じサイズでちょっとだけ違う位置にまた魚の下絵を描いて…を繰り返した。特に、積み上げた乾麺はライトの熱がよく当たる上の方が乾燥して曲がりやすくなるため「スタジオ内の湿度を加湿機や除湿器で細かく調整する手間に追われた」という。
 
 一方、最新作の『おどるカエル』は、森の中で命の危機にさらされたカエルが、たびたび意識を失いながら他のカエルの体へ憑依などを繰り返していく姿を、パペットのコマ撮りアニメで描いた作品だ。監督は物理学者ファインマンの「時空意識」という概念を本で読み、これを表現しようとした意欲作だ。
 

 
 現実の世界では、グミキャンディーのようにカラフルな個々のカエルが動き回る。一方、意識を失った仮想の世界では、個々のカエルが真っ白な体で少しずつポーズを変えて絡み合いながら直線上に並んでいる。それは、ジンマン監督が「いつか使ってみたい」と考えた立体ゾートロープそのもの。カエル1匹1匹の身に起こる出来事を時間に沿って表現し、そのラインに主人公のカエルが飛び乗ることで、それぞれのカエルが出くわす出来事を主人公が繰り返し体験する姿を描きたかったのだという。
 

 
 そのために作ったカエルの数は、白いカエルだけでも実に260体。アルミの棒で骨格を作り、関節が動くようにしてシリコンで肉付けした。撮影にはブルーバックを用い、パソコン上で合成。また、現実世界でカエルたちが躍動する場面では、義理の母が40年育ててきた盆栽を木として活用。躍動感を出すため、モーションコントロールカメラを自作するなど凝った撮影になった。
 韓国で小規模な「Humuhumuスタジオ」でこれらを含む作品6本を制作しながら、学校でアニメを教える仕事に就いているジンマン監督。ストップモーションアニメのノウハウを蓄積し、現在制作中のパペットアニメのほか再び乾麺を使ったアニメについても企画しているという。