映画祭レポート⑬/『詩季織々』(ゲスト:「上海恋」リ・ハオリン監督)


 
 大ヒットした『君の名は。』(2016年)など新海誠監督作品の数々で知られるコミックス・ウェーブ・フィルムと、中国のアニメ会社Haolinersが合作した『詩季織々』(2018年)は、具体的な中国の地域・都市を舞台に、若者たちの恋や人生の葛藤をみずみずしく描いた3話の短編からなるアンソロジー作品だ。上映後、リ・ハオリン総監督と、コミックス・ウェーブ・フィルムの堀雄太プロデューサーが登壇し、アニメーションジャーナリスト数土直志氏の司会で制作秘話が楽しく語られた。
 
 精緻な美術をバックに、叙情的に紡がれた物語は、新海誠監督の諸作品を連想させる出来栄え。そこに中国特有の衣・食・住・行(交通機関など)の丁寧な描写が加わる点が新鮮だ。劇場だけでなくNetflixでの配信や、DVDの販売が行われている。
 

 
 リ総監督は「学生時代、彼女にフラれた頃に『秒速5センチメートル』を観て新海監督の大ファンになった」と明かす。2013年に『言の葉の庭』中国公開を現地でコーディネートした際、ぜひ合作したいと猛アタック。当初は断られるも、CWFとは友好的な関係を続け、ついに『君の名は。』の制作が一段落してから本格的に作業が始まったという。
 

 
 第1話「陽だまりの朝食」は湖南省から北京の大学へ進学した青年が、郷里の名物ビーフンの味とともにさまざまな思い出を振り返る一編。実においしそうに描かれるビーフンは、同話を担当したイシャオシン監督(元々実写畑でコメディーを得意とし、これがアニメ初挑戦)が日本側スタッフを湖南省へ引き連れたロケハンの成果という。「湖南省で食べたビーフンのいくつかは非常に辛味が強かったのですが、その晩はおなかが大変なことに」と堀プロデューサーは苦笑した。
 
 第2話「小さなファッションショー」は、大都会の広州で健気に頑張る人気モデルと服飾学校生の姉妹の姿を追った。現代中国の華やかな業界が舞台で、新海誠作品でCGなどを担当してきた竹内良貴監督が初オリジナル作品として手掛けた。
 
 第3話「上海恋」は、幼なじみ同士の淡い恋模様やすれ違いを社会人になった青年が回想する物語。リ総監督自らが担当し、カセットテープやラジカセなど懐かしさを感じさせる小道具を絡めた。リ総監督が生まれ育った上海が舞台で「開発が進む上海では、わずか1カ月で家の前の店も変わってしまいます。そんな失われていく街並みを、アニメで残したかったんです」と狙いを説明。「実写では冷たい現実がそのまま写ってしまうこともあるのですが、アニメなら描き手が温かい思いを画面に込められます」と話した。
 
 いずれも過去と現在、男子と女子など異なる要素を組み合わせた物語だ。「日本と欧米など海外との合作アニメでは数多いが、うまく行った例は少ない。本作はさまざまな要素が良いバランスで成功している」と司会の数土さん。アメリカのアニメコンベンションで観たときも現地の観客が万雷の拍手を贈っていたと言い「中国的な要素と日本的な作りが融合しながら、グローバルに受け入れられる作品」と評価する。
 

 
 この点について堀プロデューサーは「絵コンテをかっちり決め込んで作る日本の制作スタイルを中国側が理解し、コミュニケーションをしっかり取り合ったおかげで良いフィルムになったのでは」と言い、リ総監督は「キャラクターに気持ちを直接出させるのではなく、ビーフンやカセットテープなど小道具を介して間接的に描いた。アジア的(婉曲)な表現を取りながら恋愛という、地域を越えて感動できる題材を選んだつもりです」と話した。