映画祭レポート⑫/スタジオフィーチャー コミックス・ウェーブ・フィルム
映画祭2日目、日本映画史に残る大ヒット作『君の名は。』を送り出したコミックス・ウェーブ・フィルム(以下、CWF)のプロデューサーの堀雄太氏をお迎えし、名作を生んだスタジオの魅力・個性豊かなクリエイターたちとの関係性についてお伺いする「スタジオフィーチャー コミックス・ウェーブ・フィルム」が開催。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆を行うジャーナリストの数土直志氏が聞き手となり、CWFの制作現場の内部、作品の制作工程が語られた。
初めに、CWFが持つ会社の理念とはどのようなものかが語られた。会場のスクリーンには“愛”の漢字が大きく表示される。この“愛”とは、CWFの作品や、それを制作してくれるクリエイター、そして視聴してくださるオーディエンスの方々へ向けたものだという。
元々、大学卒業後に日本の専門学校で実写映画について学んでいた堀氏は、2012年CWFに入社、2013年に『言の葉の庭』の制作進行を担当した。その後、『Peeping Life』シリーズ、『旅街レイトショー』、『詩季織々』などの短編・長編作品のプロデューサーとなる。スタジオが持つ作品の特徴の一つとして、上映時間にバリエーションがある。その点については、「映像の尺より、クリエイターの個性を尊重している」ためという。また、たいていのアニメーションスタジオではライン(一つの作品を制作するチームのこと)が複数走るかたちで同時に作業を行うが、CWFは1ラインのみ。二つの作品を並行して制作せず、一年間をすべて一つの作品に費やしており、1クール12話のTVシリーズを制作しない理由はここにある。
CWF作品の全てにおいて特筆すべき背景の美しさについては、新海監督の強みを投与するため、全て自社の美術部で行っており、堀氏は「背景を描くクリエイターは、専門学校のほか美術大学に求人を出して、デッサンの技術を持っている方を採用している。特に重視しているポイントは“自分で考えて描いているか”というところ」という。
CWFは、原画・動画・美術・CG・撮影の制作部署が同じ場所に設けられているため、クリエイター同士が互いの仕事を意識して行うことができる。また、スタジオでは全てのカットに対してあらゆる角度から入念なチェックを行うことができ、良質な作品を送り出すよう心がけているという。
CWFは海外事業にも力を入れており、カタールや台湾といった各国からの依頼で作品制作も行っている。ただ、2016年に公開された『君の名は。』が大ヒットして人気を博すことによってスタジオへの信頼性が高まった結果、世界中から制作依頼が届いているそうだ。しかし、制作ラインの都合もありほとんどは受けられておらず、また「お金をいただくよりは、相手とのご縁や人となりを大切にしています。」と語る。また、海外の企業と共同制作をする際には常にギャップがあるという。だが、「お箸やおしぼりの使い方にはじまり挨拶など、彼らの“普通”がわからないことが多くある。しかし、全体的には自社の制作方法を尊重してくれて、十分にコミュニケーションを図れるので大きな不都合を感じたことはない」とのこと。
同会場では同日、本プログラム終了後に新海誠監督による代表作『秒速5センチメール』の世界初爆音上映、そして堀雄太氏がプロデュースした『詩季織々』が上映された。堀氏がトークショー内で来場者とクリエイターを目指す人へ向けた「アニメをつくりたいなら、何歳からでも遅くはない」という言葉には、アニメーションの作り手の個性と気持ちを尊重し、一つ一つの作品に熱心に取り組むCWFの“愛”が込められている。