映画祭レポート③/『This Magnificent Cake!』メイキング・トーク
映画祭3日目、長編コンペティション部門にノミネートされた『This Magnificent Cake!』(後に長編グランプリを受賞)の監督マーク・ジェイムス・ロエルズさんとエマ・ドゥ・スワーフさんをお招きしてのメイキングトークが開催された。
Ce magnifique Gâteau ! – teaser from Marc and Emma on Vimeo.
マークさんは実写監督であり、エマさんはウールやフェルト素材での人形制作とコマ撮り撮影を専門としている。両監督は2012年に『Oh, Willy!』でも共同制作しており、この作品はカートゥーン・ドールの最優秀ヨーロッパ賞など数多くの賞を獲得した経歴を持つ。
Oh Willy… – Trailer from Beast Animation on Vimeo.
作品タイトル『This Magnificent Cake!』とは、19世紀末にヨーロッパの大国がアフリカに進出し、アフリカに住む人々にとって最も過酷だった時代に発せられた言葉を元にしている。この言葉は巨大な土地をケーキに見立て、その取り分を競う「アフリカ争奪戦」のグロテスクな暗喩で、西洋人のダークで不条理な考え方を端的に表現していると二人は感じたという。
作品の制作にあたっては、とにかくたくさんの資料を集めるところから始めた。アフリカに惹きつけられたヨーロッパ人は祖国で成功したとは言いがたい人々が多い。人形の見た目は可愛らしいが、性格自体は非道というキャラクターに発展させた。また、道徳的な作品になることはあえて避け、人間の弱さや欠点をリアルに描くことを目指したという。作品にはあからさまな暴力シーンはなく、作中の死は不運や事故によるものが主だ。これは現地の人々が、ヨーロッパの人々にとって、障害や敵ではなく、単なる消耗品として見なされていたことを表現している。無法地帯で突然支配者となった植民者の態度や振る舞いを探求し、そのとんでもない行動をあえてコメディやシュールな表現で表したのが本作品のオリジナリティである。
また、制作中にエマさんが書いていた日記をもとに、貴重な制作秘話も語られた。巨大な舞台セットは制作に3ヶ月を要したこともあったそうだが、エマさんにとっては舞台やパペット制作は楽しい作業だった。また、王宮のセットは一つしかなく、壁紙を張り替えるなどして王の寝室や記者会見の広場、音楽会の広場の三つの場面を表したという。レコーディング作業では、実際にピグミー族で現地語を話すミュージシャンに依頼。他にも、初めての撮影時にレンズを通したセットの粗が際立って落胆してしまったことや、制作期間中は土曜日だけは完全なオフに定めていたなど制作中の生活エピソードについても披露した。
さらに人形のアニメーション付け作業の参考に使われるリファレンスショットを見せ、画面の右側に実写、左側に撮ったコマ取りのアニメーションが流されると、スタジオのスタッフによる白熱演技を見て会場は笑いに包まれた。
最後の質疑応答では観客から多くの質問が上がり、フェルトなど扱いの難しい素材を使う理由を問われると、扱いが難しいと誰も真似できない上、制約がある素材の方が新しいアイディアの発想の元になることがあると語った。本プログラムを通して、マークさんとエマさんの作品にかける熱意やこだわりと制作の過酷さは多くの観客を驚かせ、大盛況のうちに幕をとじた。